Author :

Mitsuharu Yamamura

心とむ衣食住のカタチ、生き方や暮らし方を考え、整え、ちゃんと伝える。企業の広告、雑誌や書籍、ウェブなどメディアの編集、執筆を手がけるBOOKLUCK主宰。福岡と東京の二拠点暮らし。

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だいべんおじさんの憂鬱

最近よくあるオンラインセミナーとかにものの勢いで申し込むと、たいてい職種を選ぶ欄ってありますよね。

筆者はライターなので、厳密に言えば「クリエイティブ系」になると思うのだけど、そこをあっけらかんと選択できず、そこはかとないモヤモヤ感に襲われる。「自分がクリエイティブ系って……いやいや」みたいな感じ。まいど考えあぐねたあげく「サービス系」とかに落ち着く。間違ってはない、と自分に言い聞かせながら。

その点。ターミナルは紛うことなきクリエイティブカンパニーだ。代表でアートディレクターの中田さんも、コミュニケーションディレクターの石井さんも、プロデューサーの飯塚さんも。彼らこそ正真正銘「クリエイティブ系」どまんなかの人たち……と、思っていた。なのに彼らもまた、自分たちのことを決してそうは思わず、むしろ近いのは

「だいべんおじさん」

と言うのだ。だ、だいべん!? もしかしてあの……どういうこっちゃ？ってな話を、これから矢継ぎ早にしていこうと思う。

デザインはストーリー

「本当は高校生の頃、ファッションデザイナーになりかったんです」と、青い告白をするのは飯塚さん。「専門学校に行きたかったんですけど、周りに人に相談する中で、普通の大学に進むことになりました」

そしていざ就職となっても、デザイナーになりたい！という夢は霞むことなく、アパレルの業界だけに絞って就職活動し、無事入社。「ただ専門知識はないので、営業に配属されて……結局その後、６年でリストラにあって……」（その話はこっちに）

デザイナーという夢はあえなく絶たれたものの「今になって思えば、たとえその道に入っても、活躍できなかっただろうなぁと思います。きっと向いてなかったと」

近い業界でかかわる今だからこそ、デザイナーをはじめ、クリエイティブ系と言われる人との違いに気づけたという。「彼らとは、やっぱり視点の持ち方や、考え方が違うんです。ネタになるものがあって、それをどうやって花を咲かせていくか。そこに対してのストーリー付けがうまい人が、デザイナーになれる。僕は人の情緒をくすぐる、そういう視点を持ててないなぁと感じることが多いので」

飯塚さんいわく、その点、中田さんや石井さんは「その視点を持っている人」だという。「ゼロから生み出せる発想の転換があって、素敵に展開させていく。毎回、僕の想像の範疇を超えていく。そんなものが作れる、形に残せるってすごいなぁと思いますし、そういう時自分はクリエイティブではなく、それをサポートする役目なんだなと思います」

「俺、クリエイティブっす」

なんて、ベタ褒めされたにもかかわらず「僕らのやってることって、クリエイティブなんですかね？」と、そもそものところに疑問を持つ石井さん。「チラシを作るのだって、クリエイティブといえばそうじゃないですか。でもそれをアートまで昇華させないとクリエイティブじゃないという考えもあって。人の目を気にしすぎかもしれないですけど、どこのへんから『俺、クリエイティブっす』って言っていいのかな？って」

「めちゃわかる」と中田さん。「デザインをやっているといっても、アドビのソフトウェアを使って、すでにある書体を使って。何かゼロから生み出しているのか？と言われると、ただあるものを組み合わせてるだけ、とも思いますけどね」と、ごちる中田さんに、石井さんもうなずく。

「そうだね。やっぱり広告の世界って、“クリエイティブ”ってより“代弁”というほうが近いかもね。僕らは代弁おじさん、みたいな」

「代弁おじさん！」（中田さん）

「代弁おじさん！！」（飯塚さん）

「確かに、そっちのほうがしっくりきますね」と中田さん。「便宜的にクリエイティブと使ってますけど、実はおこがましい。クライアントの仕事って、とっかかりがあるんですよ。お客さんのなかに本質があって、探りだしていく。僕だったらそれを、デザインを使って代弁してあげる作業だと思うんです。これが作品となると、そのとっかかりを作ることから問われる。それは大きな違いだなと思います」

並べてみると、トーンが出てくる

いや、でもね。と、なおもツッコむ。いくら代弁といえど、どうしようもなく「自分」というのが、出てしまうんじゃないだろうか。それって、つまり個性であり、クリエイティブじゃないかと、ね？という質問に、中田さんが口火を切って答えてくれる。

「確かにこれまで自分が見てきたものの積み重ね、過去の経験からしかアウトプットできないような気はします。受注のデザイン仕事でも、どうしてもフィルターがかかってしまう。なるべく自分のフィルターはないほうがいいんだと思うんですけど。それでも、どうしてもかかってしまうものが、個性なのかな？と」

それはウェブサイトを新しくした時、あらためて気づいたことだという。「やってきた仕事の中で、いいものができたなって思うものを並べてみると、トーンがあるんです」

思えば学生の頃。佐藤可士和さんや水野学さん、中島英樹さん、グルービジョンズ。海外ではピーターサヴィル、ネビルブロディー、トマトなどに憧れ、彼らの作るもの全体から滲み出るトーンに胸を焦がした。「ようやくこの歳になって、自分もそれなりのトーンは作れたかもなぁ、みたいなことは思いますね」

と、なんともいい声でいい話をしてくれる中田さんに対し「難しいなぁ。そこまで言えるほど、僕はまだ到達してないと思うんだよなぁ」と、画面越しでもわかる（あ、この取材リモートでやりました）遠い目をする石井さん。「確かにでも『こいつに頼むとこうなってくるな』とか。トーンみたいなものができて、それが仕事になってくると幸せですね。生きててよかったなと思うかもしれない」そして強調する。「いずれにせよ“図らずも”というのが、かっこいいんだろうなと思います。偉大なる人物はみんなそう」

謙遜というよりわきまえ

「僕からみると、ふたりともクリエイティブだろ！って思うんですけどね」と、満を持してツッコミを入れてくるのは飯塚さん。「客観的な立場から見ると、さっき石井さんが話していたクリエイティブの線引きというのは、さらに高度な悩みですよ」

もともとクリエイティブに対する尊敬の念を持っているからこそ、感じること。「でもま、ひとつ言えるのはですね……」（このあと締めてくれます）

「会社を立ち上げる前、フリーランス同士で仕事していた僕らからすれば、今自分たちがやってることって、たぶん『クリエイティブだ！』と思うと思うんですよ。ただ当時から比べると、明らかにいろんな意味で成長している。その自分たちからすると、さらには上には上がいるということを、やればやるほど見えてくる。立場のわきまえと冷静な分析。僕は謙遜ってより、そっちなのかなと思いますね」

どこまで行けども引きずる、彼らのクリエイティブへのコンプレックスが露呈された今回のトーク。ひょっとすると高円寺の飲み屋で深夜３時とかに交わすような（しかも翌朝にはきれいさっぱり忘れてるような）うたかたの会話かもしれない。でもだからこそアーカイブ化されたことは、ちょっとした“街角の奇跡”。

そう、彼らが60歳とかになった時、もっと滋味深〜い味わいが出てくるような気がするのだ。

→vol.03に続く。