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とある雨の日。代表の中田さんは、額にかかった髪を時折かきあげながら、これからの世に中についてポツポツと語り始めた。 それはいつの間にか、思いがけぬうち、ターミナルの未来を示唆する、大切なメッセージとなった。

Author :

Mitsuharu Yamamura

心とむ衣食住のカタチ、生き方や暮らし方を考え、整え、ちゃんと伝える。企業の広告、雑誌や書籍、ウェブなどメディアの編集、執筆を手がけるBOOKLUCK主宰。福岡と東京の二拠点暮らし。

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もやもやすること、ないですか?

僕らが話をしたのは、大型連休の初日だった。zoomの画面を開くと、中田さんはお休みにもかかわらず、千駄ヶ谷のオフィスにいた。「ちょっとやることがあって……」と話す彼は、心なしかいつもより少しアンニュイに見えた。そう感じたのはもしかすると、雨のせいだったかもしれない。

ターミナルのスタジオに行ったことある人なら分かると思うけれど、打ち合わせができるラウンジはサンルームのようなつくりで、季節や天気をびしびし感じる。なのでその日、大きなガラス窓から差し込む、しっとり青い光をまとった中田さんは、グレン・グールドのような退廃を醸していたのかもしれない。

これは、取材という気分ではなかった。僕は世間話に切り替えることにした。

「最近どうですか?もやもやすること、ないですか?」

と聞くと、心当たりがあるのか、彼はいささかハッとした表情になり、いろいろ……あの、なんだろう……いろいろあって……とつとつと、口火を切りはじめた。そして、とりとめもない話になるけどいいかと聞いた。もちろんと僕は答えた。

無駄な消費を煽ることに、意味があるのか。

あのね、最近読んだ本の話なんですけど。

日本は戦後、それこそゼロからもの作りが始まって。そもそも世の中にものがないので、作る必要があったわけです。安全に暮らしたい、便利に暮らしたい、そんな人々の欲求に、もので応えていった。それが資本主義の原動力になって、経済成長を遂げた。

ただ今は、物質的にほぼ満たされた状態にあって。成熟した世界になったはずなのに、みんな幸せですか?と問われると、空虚感が漂う。なんでだろう、と。

それって自分に置き換えて考えると、デザイン会社はおおげさに消費を喚起して、ものを売るのが正義。新しいボタンがついたとなったら、デザインですごいもののように見せて、購買欲を喚起する。

ただ人口が減少し、地球資源も有限のなかで、無駄な消費を煽ることに、意味があるのか。我々デザイン会社だけじゃない。広告業界全体として、どうすればいいのか?

一人間の倫理観としては、別にこれ以上、無駄なものを作る必要はないと思っているんです。うちはもともと、ただ煽るだけの仕事は少ないと思うけれど、マーケティングってそもそも、いかに欲求を喚起して、売るのが原理原則。その枠組みで動いてきたわけなので、ものを売らないとお金が入ってこない。お金はないと困りますからね。うーん……。

僕らがやれることは、これしかないから。

そんな中で、今いっこ考えているのは、中小企業の案件。

日本の会社ってたくさんあるけれど、大企業って1%にも満たない。あとの99%が中小企業、零細企業なんです。大きな企業の仕事って、誰かが考えたブランディング戦略がすでに存在していて。企業理念があり、体現するための行動指針があって、それがコミュニケーションに落ちてきて、とちゃんと設計されている。けれど中小企業は、コンセプトや戦略をすっ飛ばしてアウトプットのみで成立させているところが多いなと思っていて。

思いつきでチラシを作ったり、ウェブを立ち上げたり。何のためかとかは、そこまで考えられていない。それが日本のウィークポイントであるなら、僕らが出る幕なんじゃないかと。

我々デザイナーが作る「デザイン」は、時代の空気、社会の空気を作っていっていると思います。もちろん、「デザイン」という以上アウトプットなんですけど、その前には、クライアントが抱えている課題を出して、戦略を作って、目的を見据える。それを実現させるためのアウトプット。時には「頼まれたチラシですけど、チラシじゃありませんね」と、言う必要もある。

今、自分たちに何ができるんだろうと、もやもや考えていた時に、やっぱりデザインしたり、コミュニケーションのありかたを作るしか、やれることはない。

だとすれば、事情やしがらみもなく、ちゃんと自分の目線で考えられるサイズ感で、心から賛同できるモノやサービスを通じて、ひとりでも多くの人に、ポジティブな影響を及ぼしたい。

代理店に頼むには規模が小さすぎるけど、個人のデザイナーでは手に負えない領域。そこを変えることが、世の中の空気を変えていく……って大げさですけど、そう思ってます。

具体的に言えば、それは多分、指標を設ける的なこと。ぶらしちゃいけない軸を作る。自分たちが立ち返られるものがあると、迷いがなくなってくるんです。

僕らがやれることは、伝えたいことがある人が、世の中に伝えたいことを伝えるためのお手伝い。少人数の組織であろうと、世の中に何か言いたいことがある人。ただ、そこの「言い方」も色々あって、大きい声で叫べばいいってわけでもないし、予算が少ないからなにもできないってわけでもない。何を大事にしていて、どんな価値観を持っていて、それがあると世界がどうよくなるかを考えていく。すると……なんかこう……なんだろうな。とりあえずま、そんな感じです。

それとね、実はもう1個もやもやがあるんですけど……それも話していいですか?

→続く。(公開したらお知らせします)